なぜNASAにはtheがつかないのか

※この記事は、アメブロ時代に書いた記事を若干改版したものです。

 

早速ですがfingerという単語を見て、あなたはどんなイメージを持ちますか?

指・・・そうですね。

早速ですが英英辞典でfingerを見てみましょう。

[finger]
Your fingers are the four long thin parts at the end of each hand.
(COBUILD)

指は4本だって書いてあります。おかしいですよね。

別の英英辞典を見てみましょう。

[finger]
one of the four long thin parts on your hand, not including your thumb
(LDOCE)

thumbというのは親指のことです。

手にある4つの細長い部分の一つのことで、でも親指は含まない。

そう。fingerには親指は含まれないんです。親指以外の4本の指のことをfingerというのです。

すくなくとも英英辞典の説明文の上では。

こんな面白い発見がある英英辞典の世界をちょっと覗いてみましょう。

その前に。

英英辞典といえば、当然のことながら最初から最後まで英語ばかりです。これだけでイヤになってしまう人も多いはず。

そこで、英英辞典を楽しむコツを一つだけお教えします。

それは・・・。


読めるところから読んでみる

当たり前ですね。

では、読めるところというのはどこにあるのでしょう。

知っている単語をひいてみる

一番のコツというのは、実はこれです。

なぜ意味を知っている単語をひかなくてはならないのかと思うでしょう。

いいんです。

英英辞典を楽しむというのは、単語の意味を知ることではないんです。

意味がわからない単語が出てきたら、素直に英和辞典をひけばいいんです。あなたが知っている単語の意味と、英英辞典に書かれている内容を比べてみる。これでいいと思います。

知らない単語をひいてみたって、チンプンカンプンです。ですから、中学一年生の教科書に出てくる単語、身の回りにある身近な単語を英英辞典で調べてみる。これが英英辞典を楽しむ一番のコツです。

このレポートで取り上げるのもそんな簡単な単語ばかりです。でも、そこには驚きがいっぱい詰まっています。

■□使用している英英辞典について

私は「毎日読む英英辞典」というメールマガジンを毎日発行しています。

英英辞典に書かれている説明文を見て、それが何のことについて書かれているのかあててみようというクイズのようなスタイルのメールマガジンです。

メールマガジン「毎日読む英英辞典」
http://www.mag2.com/m/0000134848.html

英文が出てきただけで「うっ」と思ってしまうような方を主な対象にしていますので、小難しい文法などはまったく出てきません。

このレポートでは、今まで書いてきたメールマガジンやブログの記事の中から、これぞ英英辞典の醍醐味というような記事だけを取り上げて、あらためてレポートとして書き直してみました。メールマガジンとあわせて、英英辞典を少しでも身近に感じていただけるきっかけとなればと思います。

それでは、気軽に楽しめる英英辞典の世界を覗いてみましょう。

■□ドラキュラとアールグレイ

社会科の時間に、貴族の位には「公候伯子男」ということで、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の5つがあるということを習った方も多いと思います。

スタジオジブリの「耳をすませば」に出てきた猫の男爵はバロン男爵でした。

男爵は英語でそのままbaronといいます。まずはこのbaronを英英辞典で見てみましょう。

a man who is a member of a low rank of the British nobility or of a rank of European nobility
(LDOCE)

やっぱり男爵はランクが低いのですね。

その上には何があるかというとDuke(公爵)、Marquess(侯爵)、Earl(伯爵)、Viscount(子爵)があります。

デュークというのもどこかで聞いたことがありますし、紅茶の「アールグレイ」は、グレイ伯爵が考えてブレンドしたものだそうです。他にも、ルパン三世に出てきたカリオストロ伯爵とか、三銃士に出てきたバッキンガム侯爵とか、意外に身近ですね。

男爵いもだって、函館に農場を持っていた川田男爵という人が改良したことからついた名前です。

でも一番子供の頃から親しんでいる(?)のはドラキュラではないでしょうか。

ドラキュラといえば、真っ黒いマント。装いはなんだか高貴な感じがしますけれど、血を吸ったりニンニクが苦手だったり、なんだかよくわからないキャラクターです(笑)。

そのドラキュラを英英辞典で見てみましょう。

a frightening character originally from the book Dracula by Bram
Stoker, who has appeared in many horror films. Count Dracula is a
vampire (=a creature who drinks people’s blood in order to stay alive)
(LDOCE)

よくわからないキャラクターじゃなくて、怖いキャラクターですね。小説に出てきたのが始まりのようです。
vampireは「ヴァンパイア」ですね。生きるために血を飲まなくてはいけないということがカッコつきで書かれています。

ここではCount Draculaという部分に注目してみましょう。

ドラキュラは伯爵ですよね。

ということは、countが伯爵なのでしょうが、先ほど出てきた爵位の中にはcountというのはありませんでした。早速調べてみましょう。

[count]
a European nobleman with a high rank
(LDOCE)

A Count is a European nobleman with the same rank as an English earl.
(COBUILD)

ここに先ほどのearlが出てきました。これで解決です。

イギリスでは伯爵のことをearlといいますが、他のヨーロッパの国ではcountというのですね。

ということは、アールグレイを考えたグレイ伯爵はイギリスの伯爵なのかと思いましたか?その通りです。

■□theがつく場合とつかない場合

FBIって何の略かご存知ですか?

英英辞典を見れば出ていそうです。見てみましょう。

[FBI]
the Federal Bureau of Investigation the police department in the US that is controlled by the central government, and that deals with crimes that break national laws rather than state laws
(LDOCE)

The FBI is a government agency in the United States that investigates crimes in which a national law is broken or in which the country’s security is threatened. FBI is an abbreviation for `Federal Bureau of Investigation’.
(COBUILD)

abbreviationというのは、この手の説明文では必ず出てきます。FBIはFederal Bureau of Investigationのabbreviationであるというのですから、これは「省略形」ということですね。

他にも出てこないか、調べてみましょう。FBIといえばCIAです。

[CIA]
the department of the US government that collects information about other countries, especially secretly
(LDOCE)

The CIA is the government organization in the United States that collects secret information about other countries. CIA is an abbreviation for `Central Intelligence Agency’.
(COBUILD)

CIA というと、とにかく秘密主義というか何をやっているのかわからないという、そんなイメージがあります。

さらにCIA長官というと、実はその上には大統領しかいないので、こう・・なんというか・・ヤバいことでもなんでもやっちゃいそうなイメージがありますね。

これに対し、FBI は、州のレベルを超えた犯罪を取り扱っているそうです。合衆国憲法を守るのが仕事ですね。
それではもうちょっと、FBIとかCIAのような略称を見てみましょう。

[NASA]
NASA is the American government organization concerned with spacecraft and space travel. NASA is an abbreviation for `National Aeronautics and Space Administration’.

スペースシャトルを飛ばしているアメリカの航空宇宙局ですね。

あれ?

COBUILDの説明文を見ると、FBIやCIAではtheがついていますが、NASAではついていません。

気になりますね。他にもいくつか見てみましょう。

[UN]
The UN is the same as the United Nations.

[BBC]
The BBC is a British organization which broadcasts programmes on radio and television. BBC is an abbreviation for `British Broadcasting Corporation’.

[USA]
The USA is an abbreviation for the United States of America.

[OPEC]
OPEC is an organization of countries that produce oil. It tries to develop a common policy and system of prices. OPEC is an abbreviation for `Organization of Petroleum-Exporting Countries’.

[NATO]
NATO is an international organization which consists of the USA, Canada, Britain, and other European countries, all of whom have agreed to support one another if they are attacked. NATO is an abbreviation for `North Atlantic Treaty Organization’.

Theがついているものとついていないものがありますね。

整理してみると

theがついているもの
FBI, CIA, UN, BBC, USA

Theがついていないもの
NASA, OPEC, NATO

この違いは何なのでしょう。

これは、実は読み方によります。

アルファベットをそのまま読むものにはtheがつきます。

ナサ、オペック、ナトーのようにアルファベットを読まないのが the がつかないパターンですね。

組織名を略している場合、アルファベットで読んでいるかどうかによって the がついたりつかなかったりするのです。

■□ウクレレの秘密

ハワイといえばウクレレ、ウクレレといえば高木ブーというくらい強烈なイメージがあります。

なんだかギターの友達のような楽器ですが、これを英英辞典で見てみましょう。

[ukulele]
A ukulele is a small guitar with four strings.
(COBUILD)

あれ?

A ukuleleとなっています。

An ukuleleではないのでしょうか?

もしCD-ROM版の英英辞典をお持ちでしたら、ukuleleを調べて発音を聞いてみてください。「ウクレレ」とは聞こえませんね。

発音記号で書くとju:kəleiliとなり、「ユゥクレイリ」という感じになります。ですからanではなくaなのですね。

最近馴染み深い言葉に「ユーティリティ」というのがありますが、これも英語で書けばutilityです。

[utility]
A utility is an important service such as water, electricity, or gas that is provided for everyone, and that everyone pays for.
(COBUILD)

やはりaから始まっていますね。

逆に、あまり聞かなくなってしまった(かもしれない)言葉に「ユートピア」というのがあります。

[utopia]
If you refer to an imaginary situation as a utopia, you mean that it is one in which society is perfect and everyone is happy, but which you feel is not possible.
(COBUILD)

これもaですね。

それにしても、ユーティリティ、ユートピアは「ユ」から始まるのに、どうしてukuleleだけは「ウクレレ」になってしまったのでしょうね。さすがの英英辞典でも、そこまでは書いてありませんでした。

でも、ハワイのウクレレハウスに行ってちゃんと発音できたら、何かいいことがあるかもしれません(笑)。

■□虫にもいろいろ

ブルドーザーや戦車についているキャタピラ。どうしてキャタピラっていうのか、ちょっと見てみましょう。

[caterpillar]
a small creature like a worm with many legs that eats leaves and that develops into a butterfly or other flying insect
(LDOCE)

キャタピラ自体は芋虫のことなのですね。確かにキャタピラは芋虫みたいですし、のろのろと進むあたりもそっくりです。このへんからキャタピラという名前になって、商標まで登録されたのでしょう。

ところで、この説明文でlike a wormと書かれているのがちょっと気になります。

wormは虫ですよね。その「虫のような生き物」と書かれているのですが、ということは、芋虫は虫じゃないのでしょうか。

そこでwormを見てみましょう。

[worm]
a long thin creature with no bones and no legs that lives in soil
(LDOCE)

A worm is a small animal with a long thin body, no bones and no legs.
(COBUILD)

骨も脚もないのがwormなのですね。ミミズのような生き物です。

虫といえばinsectという単語もあります。

[insect]
a small creature such as a fly or ant, that has six legs, and sometimes wings
(LDOCE)

An insect is a small animal that has six legs. Most insects have wings. Ants, flies, butterflies, and beetles are all insects.
(COBUILD)

こちらは脚が6本あるのですね。アリや蝶のような生き物がinsectです。

ですから脚がたくさんある芋虫はinsectではありませんし、かといってwormではありません。そこで、wormのような生き物ということになるのですね。

一応flyやbeetleを見てみましょう。

[fly]
A fly is a small insect with two wings. There are many kinds of flies, and the most common are black in colour.
(COBUILD)

[beetle]
A beetle is an insect with a hard covering to its body.
(COBUILD)

ちゃんとinsectとなっていますね。

ちなみに、どう見ても足が4本しかないという蝶も多いようですが、そういう蝶は6本のうちの2本が退化してしまってほとんど見えないのだそうです。

逆に、脚が8本あるクモはどうでしょう。

[spider]
A spider is a small creature with eight legs. Most types of spider make structures called webs in which they catch insects for food.
(COBUILD)

やはりinsectではないのですね。

とはいえ、クモが6本足の虫ばかり食べるかというと、そういうことではないとは思いますが。

■□辞書と「訳す」

このレポートの最後に、メールマガジンやブログで毎日使っている「辞書」を見ておきましょう。

[dictionary]
a book that gives a list of words in alphabetical order and explains their meanings in the same language, or another language
(LDOCE)

A dictionary is a book in which the words and phrases of a language are listed alphabetically, together with their meanings or their translations in another language.
(COBUILD)

物事の意味を説明したり、他の言語での意味を教えてくれるのですね。

ここではCOBUILDに出てきたtranslate を見てみましょう。

言わずと知れた「翻訳する」です。

[translate]
to change writing into another language
(LDOCE)

If something that someone has said or written is translated from one language into another, it is said or written again in the second language.
(COBUILD)

他の言語に変換すること。翻訳することです。

LDOCE には see also interpret とあります。

ちょっとコンピュータに詳しい方にはおなじみかもしれません。人間にとってわかりやすい言葉で書かれたプログラムを、パソコンが理解できるように変換するのがインタープリタです。

別の言葉に変換するという意味では同じような気もしますが、実際はどうなのでしょう?

素直に見ておきましょう。

[interpret]
to translate one language into another
(LDOCE)

If you interpret something in a particular way, you decide that this is its meaning or significance.
(COBUILD)

こうやって読んでみると、interpret も translate も同じような気もします。

でも、よく読んでみると write があるかないかという違いがある。どうやらキーになりそうなのは「書くこと(文字)が関係するかどうか」ですね。

そうやって見てみると、translate は書くことで言語を変換するのですから「翻訳する」というのがあっていそうです。

逆に interpret は書くことにはまったくこだわっていない。となると、「通訳する」というのが意味としてはあっていそうですね。

もっとも、翻訳と通訳というように、仕事の内容がまったく違うような感じがするのは日本だけかもしれません。それだけ文章としての日本語を書き起こすのが難しいということかもしれませんが。